PERSON 人を知る

手嶋達也さん
INTERVIEW

「小さな社会」の基盤作りを、吉祥寺の学校から

学校法人 古屋学園 理事長

手嶋達也 Tejima Tatsuya

学校法人 古屋学園の紹介

1937年に吉祥寺に創立し、「二葉栄養専門学校」「二葉製菓専門学校」「二葉ファッションアカデミー」の専門学校を運営している。ファッションと調理、製菓、栄養のプロを育てる食と美の総合学園として、今年で84周年を迎えた。学園のスペースを使って、地域に開かれた公開講座なども行なっている。

interview インタビュー

Q1:他者からどのようなイメージを持たれていると思いますか?

見た通り、おじさんだと思います。白髪のせいか、年上に間違われることも多い気がします。古屋学園の理事長になって15年になりますが、もともとは保険関係会社で25年間バリバリ営業をしていました。今は学校で人材を育てる立場になり、だいぶ仕事内容も変わったので、イメージも少し丸くなったかもしれません。

Q2:今学校の理事長をやられていますが、ご自身はどんな学生でしたか?

子どもの頃から、なるべく早く自立したいという気持ちが強くて、15歳から自分で仕事をしていました。結果、高校も大学も1年ずつ多く通ってしまいましたが、やればなんでもできると若さゆえの自信みたいなものがありました。
大学時代には恩師と呼べる経済学の先生に出会い、一時は熱意が薄れていた勉強にも意欲が湧き、授業にも積極的に取り組みました。今思えば、あの先生と出会えたからこそ、大学を辞めずに卒業することができたと思います。

Q3:こうなりたいという自分のイメージはありますか?

あまり言語化したことはありませんが、「できるだけ自分に嘘をつかずに、正直でいたい」と思っています。
保険会社で働いていた頃、お客さんにとっていい商品だと思えなかった時、「売りたくない」と上司に伝えたことで、喧嘩になったこともありました。これはなんだか変だな、違和感があるなと思ったら無視できないタイプでもあると思います。どうしても不条理だと思ったら、立場にかかわらず嫌だと伝えてしまうところがありますね。

Q4:自分が望む他者に与えたいイメージとはどのようなイメージでしょうか?

こういうふうに見てほしい、とは思わないようにしています。こうなりたい、という理想があったというよりは、いつも人に助けてもらって来た感覚があって、人に恵まれてここまで生きてきましたね。
今は理事長という先頭の立場を務めていますが、「手嶋理事長」ではなく「手嶋さん」と「さん」付けで呼んでもらうようにしています。これは学校内だけでなく、社外の方にもお願いしていますね。「社長」「理事長」といった肩書きではなく、「〇〇さん」と呼んでもらうことで、お互いに一人の人として向き合っていきたいです。

手嶋達也さん

Love

Q1:「愛を伝える」と聞いて、自分にとっての愛とはなんですか?

「生きること」だと思います。
実は39歳の時に病気をして、「死ぬかもしれない」と思ったことがありました。それまでがむしゃらに働いていたので、初めて仕事から離れた経験でもありましたね。明日死ぬかもしれない状況になった時、どうやって生きていくか、ここからが第二の人生のスタートだと思ったんです。この「生きることを投げ出さない、諦めないこと」が、自分にとっての愛であり、仕事に取り組む精神にもつながっているように思います。保険会社時代に1日1,000件飛び込み営業するといったような、スパルタな環境で身についた「諦めない精神」も、今では「生きること」につながっているのかもしれません。

Q2:わざわざいう必要がない、自分の「こだわり」はありますか?

「今日のことは今日やる」ということです。「明日、もしかしたら死ぬかもしれない」という経験があるので、例えば、書類にはんこを押す仕事があれば、その日に済ませるようにします。逆にその日にできない仕事は、その日には引き受けないようにもしています。
あと、「自分がやられたらいやだということはやらない」というシンプルな信念もありますね。現在の学園の建学理念は「涵養(かんよう)の精神と職業人としての自立」ですが、以前は500文字くらいあったんですね。自分だったら長いと覚えられないと思って、コンパクトにしました。こうして、ある意味では自己中に物事を考えていくのも、大事だと思っています。

Q3:現在「愛」が一番向いている関心ごとはなんですか?

やはり、この学校のことです。
古屋学園は、昭和12年に吉祥寺に創立されてから84周年を迎え、「100周年」という大きな節目も見えて来ました。この学園の発祥は洋服店で、その隣に洋服のお直しをする場所ができて、そこから服飾学科が立ち上がりました。そのあと女性の社会進出の流れもあって、調理、栄養士、お菓子、管理栄養士といった食べ物にまつわる分野に派生していきました。いろんな歴史があって今に繋がっていますが、「学校」という場所は、記録や足跡を残しておかないと、せっかく良かったものも忘れ去られてしまう気がします。そうやっていいものを形に残していくことも、私の仕事かもしれません。

Q4:一般企業から学校という職場に移ったことで感じたギャップや、苦労したことがあれば教えてください。

私は外部から来た新参者でしたし、学校の運営と一般的な会社の経営は畑違いで、最初はすごく戸惑ったのを覚えています。会社では3年間の経営計画を立てますが、学校にはありません。変化に対する応用力をどうつけていくかは、これからの学校組織の課題だとも思います。
結果が出るまで時差があるのも学校の特徴だと感じました。現場に出る学生をたくさん育てていますが、卒業生と再会して話を聞いて、やっとひとつの成果に気づくことができます。「1+1=2」のような、シンプルな答えがなく、それまで成果も正解もわからないので、これがいいのかどうかを毎日考えています。周りもそういう新鮮な目を頼りにしてくれたのはありがたかったです。

手嶋達也さん

Action

Q1:いままで、そして現在どのような活動をされていますか?

保険会社に25年勤め、そのあと結婚を機にこの古屋学園の理事長を任されて15年が経ちました。私で4代目になりますが、特に私の代になって、だんだんと外部との交流も盛んになってきました。
会社員時代の経験を生かして「耐震委員」を務めたり、「全国調理師栄養士協会」にも関わって来ました。三鷹市や武蔵野市の地域の社会福祉法人の幹事をして、老人介護施設にお菓子を寄付したりもしています。
他にも、吉祥寺村立雑学大学(※)とコラボをして講義をしたり、古屋学園の教室を使って、エプロン教室なども開いています。吉祥寺駅の近くに、せっかくスペースがあるので「使ってなんぼ」だと思っています。その施設を活用してもらえたら私たちもありがたいです。

※吉祥寺村立雑学大学:3つのタダ(授業料・講師料・会場費の経費無料)主義の自主運営市民大学。1979年10月7日開講され、毎週土曜日に吉祥寺駅南口前・二葉ファッションアカデミーを主要会場に授業を行っている。

Q2:今後、どのようなことをしていきたいですか?

卒業生と一緒にお店を開きたいと思っています。管理栄養士になった学園のOGOBたちが、地域に食事を提供できるよう、計画を練っています。OGOBたちにとっても実践の場になるので、スキルアップにもなって社会貢献にもなることだと思っています。コロナが落ち着いたら、ぜひ実現したいですね。
そして、もうすぐ100周年という大きな節目を迎えます。日本中で活躍しているパティシエや卒業生がたくさんいるので、みんなで集まって、情報共有したり繋がりができるようなパーティーもやりたいです。

Q3:活動は誰のためにおこなっていますか?どんなことを大切に活動をしていきたいですか?

まず人のためでもあり、自分のためでもあります。知り合いの社会福祉法人の方がおっしゃっていた、「人のために尽くして自分が楽しみなさい」と話していた言葉そのものかもしれません。
普通に食事ができて、普通に学ぶことができる、言ってみればそんな普通の小さな社会を作っていくことが大切だと思います。また、学園の建学理念に「涵養」という言葉があります。「自然にしみこむように、養成すること、無理のないようだんだんに養い作ること」という意味があるのですが、そのイメージもしっくりきます。まず自分が見える範囲を幸せにする、その基盤は、これからも大事にしていきたいです。

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