PERSON 人を知る

河村 孝さん
INTERVIEW

半世紀ともにした三鷹市に「改革者」として愛と敬意を

三鷹市役所 三鷹市長

河村 孝 Takashi Kawamura

三鷹市役所の紹介

東京都のほぼ中央に位置しており、人口約19万人、令和2年11月に市制施行70周年を迎えた三鷹市の市役所。三鷹市には緑豊かな「都立井の頭恩賜公園」や「三鷹の森ジブリ美術館」、国立天文台の文化・研究施設があるほか、太宰治、山本有三、武者小路実篤など多くの文化人の足跡が各地に残っている。

interview インタビュー

Q1:他者からどのようなイメージを持たれていると思いますか?

自分では予想もできないくらい、難しい質問ですね。ただ、「改革者」のイメージを持たれたいと思っています。

Q2:「改革者」のイメージを持たれたい、その理由はなぜですか?

半世紀近く三鷹市の職員として働いてきましたが、三鷹市は今、大きな転換期を迎えていています。高度経済成長に作ってきたルールを見直し、方向転換しなければならないタイミングです。例えば三鷹市は昔から、「コミュニティ行政」として7つの拠点で地域活動を行ってきました。しかし少子高齢化によって、ずっと同じことをしていくのではなく、コミュニティ行政も福祉の現場も時代に合わせ変えていくことを求められています。さらに、新型コロナウイルスの流行により、三鷹市も経済活動も大きな課題を抱えている現状では、これからどうするのか、次の段階の挑戦が必要です。改革の必要性を感じているからこそ、「改革者」でありたいと思っています。

Q3:今、大きな信念を持っていらっしゃいますが、今までに気持ちの変化はありましたか?

職員になった当初は、明確に「これがしたい」という信念があったわけではありませんでした。正直言うと、牧歌的な仕事ができるんじゃないかという気持ちもあったと思います。市役所や行政の仕事は必要不可欠なものという意味では確かに安定していますが、いつも稼働している「当たり前」を守る仕事とも言えます。実際に働いているうちに、気づいたら24時間仕事のことを考えるようになりました。保育所のこと、ゴミの収集、社会的な機能を果たす責任とは、という視点で常に戦っています。健康上の理由で市長になることを諦めたこともありましたが、紆余曲折ありながらも巡り巡って今にたどり着いています。

河村 孝さん

Love

Q1:「愛を伝える」と聞いて、自分にとっての愛とはなんですか?

「愛」と言われると答えるのが少し恥ずかしいですが、地方公務員こそ「愛」だと思います。役所は、会社とは違って利益を追求する団体ではありません。自治体を目指す人は、利益よりも社会貢献したいという人が多いと思います。だからこそ「どれだけ貢献したい気持ちがあるか」によって仕事への取り組み方も変わります。三鷹市の職員は昔から、常にアイディアを考えて面白がって仕事をしていく気風があります。最近、飲食店・学生・給食サービス(※)という3つの課題を一気に解決できる素晴らしい取り組みも生まれました。新型コロナウイルスの影響で飲食店はデリバリー事業が必須になった一方で、学生はアルバイト先が激減、また給食サービスの食事を配達する人材を確保するため、「株式会社まちづくり三鷹」に依頼し、繋がるきっかけを作ることができました。アイディアを発信して解決していく、そんな三鷹市のいい気風をこれからも育てていきたいです。

(※)おおむね65歳以上の方のみの世帯や障がい者の方のみの世帯へ食事を配達するというボランティアなどを含めたサービス。

Q2:わざわざいう必要がない、自分の「こだわり」はありますか?

「他者への敬意」です。市長をやってみると、かつて経験した副市長とも違う役割が必要だと気付かされます。特に市長になって関わることが増えたのは福祉分野ですが、福祉こそ相手への敬意がないとできない仕事です。人生の最後の局面に対峙する仕事の場合は、相手を敬い、尊重する気持ちがないと続きません。だからこそ、私は個人としても市長としてもその人だけでなく、「その仕事をしている方」への敬意を持っていたいですし、そしてその気持ちの輪を、市民の方々にも広げていきたいです。
一方で、市長という立場は、優先順位をつけて政策を実行していかなくてはならない葛藤があります。例えば議会では、それぞれの会派から出る意見がどれも正しいとしても、政策としての優先順位を付ける必要があります。それが、市長の仕事です。これは行政に関わらず、経営者の方も同じような悩みを抱えている方は多いかもしれませんね。

Q3:現在「愛」が一番向いている関心ごとはなんですか?

今、24時間考えていると言っても過言ではないくらい、常に三鷹市のことを考えています。無意識のうちに、そうしているのかもしれません。政治家としてはまだ1年生なので、余裕が出てきたらまた変わってくるのかもしれませんが、他人から見たら仙人みたいな生活と思われるかもしれませんね。恰好をつけて言うと…仕事イコール「愛」になっています。

河村 孝さん

Action

Q1:いままでどのような活動をされてきましたか?

役所に入ったばかりの頃は、教育委員会の体育課に配属されました。大学時代から続けていた「空手部」を作って、朝昼晩と体育館で空手をしていたのは面白かったです。その後、企画経営部門に配属された時には、職員で自主研究グループを作りました。その名も、「超都市化問題研究会」。職員100人と、民間の学者さんも交えた団体を束ね、300人くらいの人数が集まりました。大きくなりすぎて解散したくらい、大人気の団体になりました。何かをするにも、誰かと一緒にやった方が面白くて、刺激をもらえます。その頃から仕組みを作ることや市民の方と関わる面白さを感じていました。市のことについて考える土台になる部分を学んでいたのかもしれません。今考えても、あんなに自由にやらせてくれる自治体は珍しかったと思います。会に信用があってのことだと思うとありがたいことで、やはり三鷹市にはその頃から自発的にやらせてくれる風土がありました。昔とはまた違う形で、この風土を復活させていきたいです。

Q2:特に今、力を注いでいる活動について教えていただけますでしょうか。

大きな課題の一つは、在宅介護です。病院ではなく、地元で人生を全うしたいという人が増えてきてます。併せて、空き家の増加も大きな問題です。高度経済成長期は、持ち家を持つことが重要視されていましたが、現代では核家族になり単身者も多くなり、「空っぽの家」が目につくようになりました。
生産者人口が減っている今、高齢者が増え、多くの方が福祉を求めています。今後は、市の規模自体を小さくする”ダウンサイジング”やコンパクトシティ(※)の選択を迫られることもあるかもしれません。人口が増えている三鷹市で、また資産価値も踏まえてどう活かしていくか、別の角度からも違う政策の展開を考えています。

(※)都市的土地利用の郊外への拡大を抑制した、効率的で持続可能な都市。生活に必要な諸機能が近接し、中心市街地の活性化が図られている。

Q3:三鷹市の魅力とはどんなところでしょうか。そして、どんなハッピーを目指されますか?

三鷹市の行政に関わり始めたのは、試験を受けて「いいところだな」と思ったのがきっかけで、偶然からのスタートでした。そこから半世紀も居続けている理由は、「自由にやらせてくれる」居心地の良さだと思います。また、三鷹市はコンパクトでちょうどいいスケールというのも魅力の一つです。やってみたいことがあったらトライしやすい規模感で、ローカルな改革が、日本へそして世界に繋がっていくような感覚があります。三鷹市で起きた問題を解決できれば、全国の他の市や、もしかしたら世界でも通用する解決方法になるんじゃないか、そんな可能性を探求できる街です。コミュニティ行政の展開、少子高齢化、在宅介護の問題は、アジア全域につながる問題なので、中国や韓国からも視察がきます。だからこそ三鷹市での問題を市民・市職員みんなで頑張って解決していきたいと思っています。
三鷹市の名誉市民に、武者小路実篤さんがいらっしゃいます。私がやりたいのは、その現代版と言えるかもしれません。全てを公助で補うことは、難しくなっている時代です。「人を支える仕組み」を社会で作っていかなくてはなりません。在宅介護、在宅医療の問題に対しても、IT技術のサービスも交えて、「見えない村」という「新しい村」を作っていきたいです。実際には見えないけれど、ちゃんと支え合って、生涯を全うできる市を目指していきます。

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